古典をほどいて編みなおす

ごきげんさまでございます。
桜の枝先はこれでもかとばかりにピンクに染まり、
硬かった蕾が少しずつほどけてゆくこのごろ、
公園はいつもより子供達の声が多くて賑やか、
大人ばかりが浮かない顔をして、春に違和感を添えています。
今を大切に生き、ちいさな楽しみ、幸せを積み重ねるしか、
弱い生き物である私たちにはできないのです。
明日の暮らしの不安や、政治への恨みを嘆いても始まらず、
生老病死の苦しみからは、逃げられない定めです。
一文無しでも向き合って、笑って過ごす覚悟をいたしたいものです。

咲き乱れ 笑って墜ちる 山椿

4月に椿亭豆柴が初おろしいたします古典落語「お見立て」を
豆柴のニンに合わせて編みなおすことに執心しておりました。
「お見立て」は、廓話(吉原を舞台にした遊郭のお話)で、
花魁(喜瀬川)、若衆(喜助)、客(杢兵衛)の3名が登場します。
花魁が大嫌いな客に会いたくないあまり、
店の若衆に「病気になった」「入院した」ついには「死んだことにしてくれ」と
デタラメで追い返そうとするんだけど、空気の読めない客は真に受けて悲しみ、
ついに「墓参りに行く」と言い出す。墓場まで来たけどどのお墓だろうと迷う客に
若衆が「へい、お好きな墓をお見立てくださいまし」という落ちです。

江戸落語では、この作品に限らず「花魁にモテない客」をしばしば
「訛りのひどい田舎者で空気の読めない奴」として描いています。
確かに名人がお演りになる杢兵衛は、滑稽でキモいやつ。
恋人にするには「嫌」っていうより「無理」ってタイプ。

「お見立て」を編みなおすにあたり、私はこの杢兵衛のモテない要素に注目しました。
そしてひとつヒントを得ました。
これ本当は、嫌われる要素は、田舎者だから、ていう要素ではないみたい。
「粋じゃない」「空気が読めない」「人情がない」
杢兵衛のモテない三大要素。それは、花魁だけじゃなく江戸っ子が最も許せない要素。
その要素を角が立たないわかりやすさと滑稽さを伴って表そうとした時
「言葉の訛り」というわかりやすい滑稽さを持ったフォーマットに載せてみて、
この杢兵衛は、生まれたのではないでしょうか。

つまりこれが江戸でウケるのは、多少なりともそこに
「江戸っ子のプライド」が凛としてあるからであり、またその裏を返してみれば、
江戸っ子はそれほど「粋であること」「空気を読むこと」「人情を大事にする」を
三度の飯より大事に、時に血の滲む思いで、歯を食いしばって生きていたんだと思います。

今回、演じます椿亭豆柴は、若い女の子です。

田舎者のキモいおっさんとか、絞り出しても微塵も出てこないビジュアルです。
立ち返って、私が作りたい、博多でうける「お見立て」ってどんなだろう?
このまま博多のお客様の前で演じて、果たして面白いと思っていただけるだろうか?
少なくとも、この「田舎者を嗤う」感じに、博多の民はちょい胸が痛むと思うのです。
江戸で「無粋な田舎者」がわかりやすい笑いの要素となるとき、
大阪では「見た目がブサイク」みたいなわかりやすさがそれとなりやすいように思います。
例えば大阪なら似たような廓話では、ハゲだのデブだのお下劣だのというおっさんが
杢兵衛のように花魁にギャフンと言わされております。
たぶん、演者の手腕にもよるのだと思いますが、
そのような笑いの要素は、あまり博多のお客様に合わない気がします。
以前いくつか上方の噺で、それが笑えなくて「嫌な感じ」の空気になった経験も。
しかも多分、そういう笑いを取れるのは、演者が多少なりとも
そういう要素を自身に持ち合わせてこそ自虐的に成立するのかな、と。
そしてそういうのは昔は笑いの要素として用いられていたけれど、
現代ではセンシティブな部分であり滑稽なことではないという認識に変わりつつあります。
(とんねるずの騒動をご参照ください)

ならば、と、私は腹を括りました。
「花魁に嫌われる要素」「女にモテない男」を、女目線で書いてやろう。
だいたいね、男目線で描かれる「モテない男」が短略すぎてイラっとしてたんです。
さっそく、椿亭豆柴を呼び出してアイディアを出し合ってみました。
「喜瀬川花魁が大嫌いな男って、どんなタイプだったと思う?」
結果、残念ながら、ただの、いろんな男の悪口大会になってしまいました。
でもその中で、いくつか、決めごとをしました。
「見た目がどうだということで笑ったり嫌ったりしない」
「身体的な欠陥や体質を笑ってはいけない」
「花魁がそこまで嫌う、決定的な要素はもっと根本的な、人として大事なこと」
「だけどお客様には愛される杢兵衛さんでありたい」

さて、女目線で言わせていただきました、世界で一つだけの「お見立て」
2020.4月落語茶屋ソネスにてご披露です。
あなたが膝を打つ「モテない男あるある」の要素がいくつございますかしら。
また、ご覧になって「こういう男も嫌だ」っていうアイディアがございましたら
ぜひお寄せください。
モテない杢兵衛をどんどんブラッシュアップしてまいります。

このように、古典落語をYouTubeなどで聞いたそのまま演じるのではなく、
いちどほどいて、その構成と要素をつまびらかにし、
その歴史的背景、風土、土地柄、人々の暮らしを味わいなおし、
演じる現代の我々、現代のお客様が、同じ味わいを持てるよう、
全く違う切り口からでも描きなおすことにより、
現代に活きる落語になるよう、席亭は日々、奮闘中でございます。