栴檀(せんだん)と南縁草(なんえんそう)

みなさま、ご無沙汰しております。席亭クロキカオリです。

もうすぐ栴檀(せんだん)の花が咲く季節ですよ、と
SNSが知らせてくれました。
通勤路にも植わってる、街路樹でもおなじみの栴檀の樹。

「栴檀の、露をおろしてやってください。」

「栴檀」でぱっと思い浮かぶのが、落語「百年目」で
旦那が番頭にしみじみと話す、この台詞です。
三遊亭圓生の「百年目」が大好きなものですから
SNSで栴檀の便りをみかけて、久々に、
集中して思い編み、掘りめぐらすことができたので、
筆をとりました。

大店を預かる、憎らしいほど真面目で無粋で几帳面な番頭と
番頭を信頼しきって安心して店を任せている大店の旦那。
いろいろあって旦那が番頭に語る「百年目」の魅せ場が
「栴檀」の逸話です。

むかし、天竺に立派で美しく咲き誇る栴檀の樹がありました。
しかしその立派な栴檀の根元には、
見るに忍びないほど醜い「南縁草(なんえんそう)」という草が
びっしりと生えておりました。
人々は栴檀をもっと美しくみられるようにと考えて、
根元の見苦しい南縁草をぜんぶきれいに抜いてしまいました。
すると栴檀の樹は、たちまち弱り、枯れてしまいました。
後の人がよく調べてみますと、
栴檀はこの根元の南縁草に栄養をいただいて立派に咲き、
また南縁草は、栴檀がおろす露で勢いよく茂っていたのでした。

大店の旦那は番頭に語ります。
いまあたしとお前さんの関係は、
あたしが栴檀でお前さんが南縁草だ。
お前さんはあたしに、この店に、せいいっぱいしてくれているね。
あたしもあたしの露をせいいっぱいにお前さんにおろそう。
そして店では、お前さんが栴檀で、
店で働くたくさんの従業員が、南縁草だ。
どうかお前さん、あの子らにも、露をおろしてやってくださいよ、と。

落語茶屋ソネスがリニューアルに向けてお休みをいただいて
3ヶ月目に入りました。
もう3年くらい経っているような気がしています。
あのころ、毎日、誰かに稽古をつけたり、
次の次の企画をたてたり、一緒に読みほどいたり、
そしてそのなかで誰かの近況を聞きつけては、
なにかしら手をさしのべあったり、祈ったり。
誰かのために、そして高座のために、
メンバーや、お客様と交わす、笑顔のために、
散らかしっぱなしでめまぐるしいながらも
愉快に颯爽と、いくつもの波に乗っていた日々。

ぱたりとその日々が止まって、おかしいですね、
海は凪、まずは、自分の、自分だけの舟さえままならず、
あたしは自分を咲かすことができない栴檀か、
いくつもの煩わしくキラキラした露を待つ南縁草か、
うまくいかないいっぱいいっぱいの毎日に、栴檀の露を思います。

また、栴檀と南縁草の関係はきっと、
人と人との関係のことだけではないのだろうとも思いました。
誰だって、自分のなかに、いろんな顔の自分があります。
良い自分、前向きな自分、ずるい自分、消し去りたい自分、
たくさんのいろんな自分が互いに作用し、支えあって、
あなたという栴檀を咲かせるのだと思います。

決して良い自分であろうなどと、思わないで。

そしてどんな辛さや涙も傷も悔しさも見苦しさも、
あなたを咲かせる南縁草として、
むしりとることなく、栄養として共生できますように。
そして誰のためでもないあなたのかけがえのない足元に
どうか、その露を、おろしてやってください。

そうだ、メンバーの近況も、次回はお知らせしようと思います。
リニューアルオープンは、もうしばらくお待ちくださいませ。

読んでくれて、ありがとう。

心はいつもあなたの御許に   席亭 クロキカオリ

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