木の芽立ち-きのめだち-

ごきげんさまでございます、席亭です。
暑さ寒さも彼岸まで。お彼岸も終わり、外はやわらかな雨。
細かな滴が桜の蕾をゆるめるように撫でています。

この季節のことを「木の芽立ち」の頃、と言いまして
心も身体もバランスを崩しやすい季節。不調なかたも多かろうと存じます。

人は秋冬の間に食べていた野菜と、春夏に食べる野菜が異なるので
胃腸の酵素というものは、この春の始まりの頃は、
私のクローゼットより急いで春のしたくをしなければなりません。
そして皮膚や毛穴も、体熱を貯めて寒い冬を越すための防御から
体熱を放って暑さへの対策を充分にするためのしたくを急ぎます。

心だって、夜が長くて陽射しが少なかった冬の季節
背中を丸めて寒さに耐えて過ごしながら新年おめでとうって
心からはなかなか、簡単に切り替わりませんでしたけど
こうして寒さが緩み、南風が吹いて
陽射しも草木も鳥や虫たちも活動的になってきて
なんだか急に、世界中がキラキラ輝いて見えるから
脱いだコートのぶんだけ体が軽くなった気がしますし
寒さに縮こまっていた背中をしゃんと伸ばしたら
私も新しい何かを始めてみようかしら、
ちょっと聞きかじったいいことを暮らしに取り入れてみようかしら、
なんて、浮き足立ってしまいます。
まだ、冬のコートもセーターも仕舞えてないというのに。

桜散る 梅は零れる 椿落つ 牡丹くずれる 人は往く

日本の言葉の表現には、花が終わる際、
その花の形、美しさに応じて、終わりの表現がいくつもあります。
往々にして咲くときと対となる花もありますが、
終わりかたのほうが、より丁寧で数多く、愛しさを込めてあります。

旅立つときこそ、丁寧に。
何かを始める前に、必ず、何かをきちんと、終わらせること。
物でも、服でも、習慣でも、なんでも。
新しく自分のなかに迎えるならば、
それに代わろうとしている、その前の自分のなにかを、
ちゃんと見つめて、きちんと終わらせ、
褒めてねぎらい、卒業すること。

人生は有限で、私のエネルギーも有限です。
始める代わりにそれまでの何かをひとつ、やめることから始めましょう。
桜は咲くから散るのです。散るからこそ、実を結ぶのです。
始める前のこれまでの自分の様々を褒めてねぎらい、
これまで美しく咲いた自分を褒めて、
丁寧に、卒業してから、春を始めましょう。

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